企画分析  

米国海事行動計画(MAP)の発表と韓米造船業における協力(MASGA)

 

Ⅰ. 概要: 米国海事行動計画(MAP)の登場とその含意

2026年2月13日に発表された米国の海事行動計画(Maritime Action Plan、MAP)は、造船業を単なる製造業ではなく、国家安全保障・経済安全保障の核心産業基盤として再定義した総合戦略です。MAPは造船業の現代化、海洋人材の養成、産業基盤の保護、安全保障・経済回復力の強化という4つの軸(Pillar)を中心に設計されており、海洋繁栄区域(MPZ: Maritime Prosperity Zone)の指定と外国建造船舶への手数料賦課、連邦政府における船舶ファイナンスの拡大、同盟国との「Bridge Strag」とを融合させ、米国における生産転換の構造化を図っています。このような変化は、韓国造船業に対して、短期的な受注機会を提供するとともに、中長期的には米国内の直接投資を要求する圧力として作用するため、これらの複合的な安全保障規制に効果的に対応することが非常に重要となってきます。

 

Ⅱ.アメリカにおけるMAPとMPZ、並びに韓国の造船業

1. MAPの戦略的目的:米国内の造船サプライチェーン自立による産業安全保障の実現

米国海事行動計画(MAP)は、単独発表されたものではなく、昨年12月に発表された米国国家安全保障戦略(NSS)、そしてその下位領域における報告書により1月に発表された米国国家防衛戦略(NDS)を背景に、これを海上領域での産業・軍事能力の再建を通じて具現化しようとする実行プログラムの性格を有しています。

MAPは、米国の海洋産業の衰退を単純な市場競争力の問題として捉えていません。米国は、商業船の大部分を外国で建造し、外国の出荷に依存している構造が危機に直面する際に、戦略的脆弱性を生じさせるものと判断しています。これにより、造船産業を「海洋産業の基盤(Maritime Industrial Base)」という安全保障の概念として再度定義し、これの再建を国家安全保障課題として格上げしました。

このような脈絡から、MAPは造船分野の産業政策、貿易政策、国防調達政策、産業金融政策を統合する性格を持っています。特に同盟国との協力を前提としているものの、最終的には、米国内の生産と技術の蓄積を目指すという点で戦略的自立性を強化する産業安全保障政策として理解することができます。


2. MAPの4大Pillar:米国造船業における投資・人材・産業基盤・海洋安全保障の強化

MAPでは、4つの軸を通じて米国造船産業の再建戦略を提示しています。

最初の軸は、造船能力の再構築となります。米国は、低レベルの商業船舶建造の割合を問題であると指摘し、造船所の近代化と生産拡大を推進しています。これに向け、連邦政府における船舶ファイナンスの改善、税制インセンティブ、サプライチェーンの多様化、同盟国への投資誘致を並行して進めます。

二つ目の軸としては、海洋人材・教育に関する改革です。教育機関の支援と資格制度の改善を通じてベテラン人材を拡充し、生産拡大の基盤を整えます。

三つ目の軸は、産業基盤保護の向けて調達・貿易政策や外国建造船舶手数料等を通じて、国内生産を優遇します。

四つ目の軸は、国家安全保障と産業回復力の強化による海軍力の拡大と戦略的な商船確保を通じて、造船産業を国家戦略の資産として再確立することを進めます。


3. 過渡期にある韓米造船協力(Bridge Strategy)と韓国企業における対米投資誘導

MAPは、同盟国とのBridge Strategyを明示的に提示します。初期の段階では、同盟国造船所において船舶建造を行うものの、それと同時に、当該企業が米国造船所に資本を投資したり、合弁を通じるなどして長期的に米国内生産へと転換していく仕組みとなっています。

この戦略は選択オプションではなく、構造的なルートに近いと言えます。米国政府は連邦政府の船舶ファイナンスおよびMPZインセンティブを通じて米国内投資を促進させる一方、国防部における米国内生産物の義務使用要求法案(Berry Amendment)、連邦調達規制(FAR/DFARS)、外国建造船舶に対する港湾手数料賦課案等を通じ、造船業生態系における米国内投資を圧迫します。この構造は、韓国造船の大手3社だけでなく、エンジン会社、軍事関連企業、鉄鋼・鋳造・鍛造企業、LNG機資材企業などの1、2次協力会社による同伴進出を要求しています。これにより、ヒュンダイ(現代)自動車ジョージア工場の事例のような「造船サプライチェーン・クラスター」の形成が予想されます。韓国の造船業関連企業は、結局のところ、米国企業の買収、合弁投資、新設投資のいずれかを選択しなければならない環境に置かれることになります。


4. MPZ投資環境:米国進出企業が必然的に直面する安全保障・規制遵守の要求

MAPの核心内容のうち、韓国造船業に関連するのがMPZ(Maritime Prosperity Zone)となります。米国内に最大100区域を指定して10年間運営され、税制特典、インフラ支援、金融アクセシビリティの拡大、人材育成プログラムに集中するものと展望されます。MPZは造船所だけでなく、海洋サプライチェーン企業と教育機関についても産業クラスターのモデルとして、韓国造船業企業が投資することになる地域です。

しかしながら、MPZは単なる経済特区ではなく、MPZ内投資も単純なFDIではありません。この地域で活動することとなる韓国造船関連企業は、法人設立および運営の過程において、次の手順を踏まなければなりません。

  • 対米外国投資委員会(CFIUS)
  • 労働・移民関連の規制
  • 環境関連の許認可

それだけでなく、様々な安全保障規制手続きを経て遵守する必要があります。

  • 国防部の米国産製品使用義務に関する法案(Berry Amendment)
  • 連邦政府調達規定(FAR)
  • 連邦調達規制(DFARS)
  • 国際武器取引規則(ITAR)
  • 輸出管理規制(EAR)
  • サイバーセキュリティ認証(CMMC)

このように、インセンティブの申請や規制遵守に関して複雑な手続きが求められるため、企業における法務・コンプライアンス能力だけでは管理することが容易ではないものと予想されます。

 

Ⅲ. 結論:産業構造の転換と韓国企業の課題

このように、MAPは、造船産業を国家安全保障産業へと再編しようとする米国の戦略が集約された文書となります。4つのPillarは、造船における能力、労働力、産業保護、安全保障の回復力を有機的に組み合わせ、MPZとBridge Strategyを通して同盟企業による米国内投資の構造化を行います。

韓国造船企業においては、短期的な受注機会を得ると同時に、中長期的に、米国内の生産基盤を構築しなければならない戦略的選択の岐路に立たされます。このような転換は、必然的に複合的な安全保障や通商規制の環境をもたらすことになります。

このため、関連企業は現時点において、単純な法律諮問を超えて産業政策と安全保障規制とを統合設計していく必要があります。また、MAPは一時的な政策の転換ではなく、今後10年以上持続する産業構造再編の出発点であるため、これらの戦略設計についても、構造的かつ長期的な性格を持たせる必要があります。

☞ How We Can Help

このような課題に直面している企業のために、法務法人(有)世宗・通商産業政策センターは、3つのカテゴリーの諮問を提供しています。

第1に、投資構造設計の段階において、CFIUS、輸出統制、調達規定、税務、金融に関して統合的に考慮する「Deal Architect」の役割です。米国の法律事務所との共同諮問システムを構築し、両国の規制を同時に反映した最適構造を設計する機能が必要です。

第2に、協力会社向けのパッケージ型コンプライアンスのサポートです。エンジン会社、軍事関連企業、鉄鋼・鋳造・鍛造企業、LNG機資材企業等は、輸出統制、原産地要件、サイバーセキュリティ認証などにおいて継続的な諮問ニーズに直面することになるため、これに特化されたコンプライアンスモデルの構築が必要不可欠になります。

第3に、政策・金融に関連する検討サポートです。関連企業は、連邦政府における船舶ファイナンス制度、税制インセンティブ、韓国政策金融とMPZによるメリットを組み合わせて投資構造を設計する統合的かつ長期的なコンサルティングの必要性に直面します。

 

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 グローバル通商産業問題FOCUS  

欧州連合「電気自動車規制」の強化 - 産業加速化法(Industrial Accelerator Act、IAA)発表

 

欧州連合(EU)執行委員会は、4日(現地時間)に産業加速化法(IAA)制定案を発表しました1。公共調達と補助金の恩恵を自国生産に連携させるという点で、米国のバイ・アメリカン法(Buy American Act)とインフラ投資雇用法(Infrastructure Investment and Jobs Act, IIJA)における「ビルド・アメリカ、バイ・アメリカ」条項(Build America, Buy America Act, BABA)と構造的に類似している法案となります。これにつき、主な内容は、以下のとおりです。

まず第1に、ヨーロッパに電気自動車を輸出する企業が補助金の支払要件と公共調達要件を満たすためには、バッテリーを除く部品の70%以上を「ヨーロッパ産」使用とする必要があります。

第2に、製造業における割合UPの目標を明らかにしました。現在は、欧州連合GDPの14%が製造業となっています。これを2035年までに20%まで引き上げると明らかにしました。

第3に、化学、自動車、人工知能(AI)、宇宙、防衛産業等が戦略分野に指定されました。

第4に、戦略製造分野の場合、1億ユーロ(約1,500億ウォン)以上の外国人投資については、技術移転、現地人材の採用、欧州企業との合弁投資要件などを満たす必要があります。

この法案は、米国の「バイ・アメリカン法」およびIIJAにおける「ビルド・アメリカ、バイ・アメリカ条項(BABA)」と構造的に類似しています。バイ・アメリカン法は1933年の制定以降、公共調達において米国産製品を優遇してきた法として、トランプ政権(1期)とバイデン政権を経て引き続き強化されてきました。バイデン政権は、2022年に米国産部品の割合要件につき、55%からの段階的な引上げを始めており、現在では65%が適用されており、2029年までに75%までの引上げを目指しています。2021年にはIIJAを通じて連邦インフラ財源が投入される事業に対し、鉄鋼・建設資材等を全量米国産による使用とすることを義務付け、これはトランプ政権(2期)においても有効なものとして残っています。IAAは、これまでWTOの政府調達に関する協定(GPA)により非差別的な調達原則を貫いてきたEUが、これと同様の「国内生産優遇」政策を初めて制度化したものとして、単純な制度の拡張ではなく、EUにおける通商政策の根本的な方向転換として評価されます。

欧州委員会が発表した今回の法案は、今後、欧州議会と27の加盟国政府代表によって構成される欧州連合理事会での個別審議および承認手続きを経て、執行委員会、欧州議会および欧州連合理事会間における「3者協議(Trilogue)」を通過することにより最終法案として確定され、この過程で詳細な数値や例外条項についての修正がなされる可能性があります。通常1~2年の立法期間がかかるものとと予想され、最終可決の際に官報掲載を経て明示された施行日(主要条項基準2029年等)よりEU全域において直接的な法的拘束力を有することになります。

☞ How We Can Help

現在、IAAは立法に過程にあり、その発効は約2028〜2029年頃と予想されます。弊社の通商産業政策センターは、次の3つの領域において企業の先制的対応を支援することができます。

まず、IAAの立法に関するモニタリングとシナリオ分析です。トリローグ(三者協議)の過程で、70%の原産地要件における計算方法、バッテリーの適用範囲などの重要な規定が変更となる可能性があります。弊センターでは、交渉変数別のシナリオを作成し、韓国企業に対する含意の事前分析させて頂きます。

次に、米国・EUの二重規制環境におけるサプライチェーン・投資構造設計です。米国関税環境とEU補助金・国家支援適格要件を同時に考慮しなければならない企業―特に両市場にまたがる自動車・バッテリー企業―のために、二つの規制権域を統合したサプライチェーン構造と投資立地戦略の設計を行います。

三番目として、バッテリー産業に特化した分析となります。バッテリーは、EV70%の計算から除外され、セルは別途免除されるなど、完成車とは異なる規制トラックに置かれています。CRMA・NZIAとの関係を含め、韓国バッテリー企業における欧州投資戦略について実質的な示唆点を提供します。

 

通商貿易代表部(USTR)、「韓国のデジタル差別禁止約定」報告書の明示

 

米通商代表部(USTR)が3日(現地時間)付けで議会に提出した「2026貿易政策議題および2025年次報告書(2026 Trade Policy Agenda and 2025 Annual Report)」には、韓国政府が約束したデジタル差別禁止条項が明示されました。これに関して、2025年11月に発生したCoupang(クーパン)社による顧客個人情報3,370万件流出問題に対する韓国政府の対応が新たな変数として浮上しています。米国投資家らは、韓国政府の対応が米国企業に対する差別的法執行だとして、韓米FTA違反を主張しており、ISDS仲裁手続に着手し、USTRに対して通商法301条の調査を求めていたものの、3月9日にUSTRがより包括的な301条調査を進めるものと予想されることから、同要請を自主撤回しました。この二日後の11日(現地時間)にUSTRは、実際に、韓国を含む16か国を対象として製造業の構造的過剰生産に関連する301条調査の開始を発表しています。これは、IEEPA違憲判決後、関税システムを301条を基に再編する一貫として、補助金・国家産業政策・市場アクセスへの障壁・為替レート慣行等の不公正な貿易慣習の全般が調査の対象となります。また、強制労働関連の第2次調査についても追加予告をしており、デジタル規制に焦点を当てた追加調査の可能性も視野に入れています。ただし、ISDS仲裁手続きに関しては、別途で引き続き進められています。公正取引委員会が推進中のオンラインプラットフォーム法についても、USTRは韓国のデジタル差別禁止の約定に違反する可能性があると警告し、セクション301調査のカードを圧迫の手段として提示しているところ、デジタル規制が韓米通商関係における核心争点となる見込みです。

☞ How We Can Help

韓国のデジタル規制環境が米国関連通商懸案の直接的対象となった現在の状況において、弊社の通商産業政策センターは両方向からの企業支援を行っています。

韓国企業に対してはプラットフォーム法・個人情報保護法等の国内規制が、米国のSection 301調査や通商報復につながる可能性について事前に評価し、米国市場戦略に及ぼすシナジー効果を分析します。

一方、韓国に進出している外資系企業に対しては、韓国政府の規制執行が通商紛争へと飛び火する場合、韓米FTA・ISDSフレーム内で活用可能な対応オプションを提示し、立法動向に関するモニタリングを通じて先制的なコンプライアンス戦略を策定させて頂きます。

 

通商産業政策センター(Center for Trade, Industry and Public Affairs)
法務法人(有)世宗の通商産業政策センターは、単純な法律リスクを検討するだけでなく、企業において、急変するグローバル地政学・通商・産業環境を機会転換できるようにサポートする総合戦略コンサルティング組織となります。経済安全保障・輸出統制・関税等の各国における規制の影響を政策的コンテキストを通じて構造的に分析し、その中で企業の海外進出戦略・投資構造・供給網の再編、紛争解決に向けたソルーションを統合設計することがセンターの重要な役割です。防衛産業、エネルギー・インフラ、造船、バッテリー、半導体、AI等の戦略産業分野を重点的に取り扱い、米国・EU・中国の3大圏域をはじめとする主要国家における規制リスクの統合管理を行います。

 

1 European Commission, Regulation of the European Parliament and of the Council on establishing a framework of measures for accelerating industrial capacity and decarbonisation in strategic sectors and amending Regulation (EU) 2018/1724, Regulation (EU) 2024/1735 and Regulation (EU 2024/3110 (the Industrial Accelerator Act) (Brussels, 2026, Leaked Draft)

 

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